受験のプロが語る!2019年度大学入試の傾向と志望校選びのポイント

現行制度最後となる2020年度の大学入試で人気になりそうな学部・学科は?
現高校2年生にとっては2021年度の入試改革で出題や試験方法にどんな変化があるのか早めに知っておきたいところです。
駿台教育研究所 進学情報事業部の石原賢一部長に2020年度、2021年度の入試を展望していただきました。

2020年度入試、受験生の動向

入学定員の厳格化が実施され、私立大学上位校の志願者が減少

私立大学の2019年度入試では、受験生の間に安全志向が働いたため上位校の志願者が減り、中堅以下の大学の志願者が増えたため、多くの合格者が出ました。不合格者が減少した中で、その中には専門学校に進学したものもいたことから、浪人が例年に比べ非常に少ない年になりました。受験生が中堅以下の大学に流れたあおりを受け、「MARCH」や「関関同立」のなかには定員充足率が100%を下回っている大学もあります。青山学院大学は3月30日に補欠合格者を発表しているほどです。なぜ受験生に安全志向が働いたのか。要因として考えられるのは、入学定員の厳格化です。前年度入試での首都圏・関西圏の私立大学の合格者の厳しい絞り込みの結果を見て、上位校の志望者が減ってしまったことが、このような事態を招いてしまったと見ています。

駿台教育研究所進学情報事業部長 石原賢一氏

科目負担の大きい国公立大学に志願者が増える要素は見当たらない

2020年度入試は、現役生の数は今年とほとんど変わりません。今の高校3年生の数は前年から1%も減っていませんから。ということは、2019年度入試で浪人の発生が少なかった分だけ“間口”が広い入試になるはずです。ただ、それでも志望傾向は模試の動向を見る限りでは2019年度と同様、強気に受験校を選ぶとは言えません。早稲田大学、慶應義塾大学、上智大学、東京理科大学、GMARCH、関関同立クラスなどの上位校は志願者が増えず、中堅以下の大学に多くの志願者が集まる。そういう入試になることは間違いないでしょう。2020年度も人気は圧倒的に私立大学です。国公立大学は科目負担が重いので、志願者が増える要素がありません。センター試験の理科の負担が文理ともに重過ぎます。特に後で述べる2021年度入試では、国公立大学志願者は激減するかもしれません。科目負担に加え、大学入学共通テスト(以下「共通テスト」)の準備状況が、あまりに遅れているからです。

文科系ではグローバル系、理科系は首都圏私立大学が増えそう

系統別では、文科系の志願者が頭打ちという印象です。東京オリンピック・パラリンピック開催後の景気は少し冷えるだろうという判断が働いているのでしょうか。特に経済・経営・商学部はこれまで人気が上がり過ぎた反動が来ていると思います。そうしたなかにあってグローバル系は好調。来年もいくつか新しいグローバル系の学部ができます。

反対に、理科系の人気は復活しつつあり、特に首都圏の私立大学理科系は志願者が増えそうです。なかでも東京理科大学、芝浦工業大学、東京電機大学、工学院大学、千葉工業大学あたりが増えると見ています。ただ、国公立大学に関してはこの傾向はあてはまりません。理由は、センター試験の負担が重いこと。理科が専門科目2科目、つまり教科書の全範囲をセンター試験までに終わらせる必要があるので、国公立大学の理科系は志願者が増えそうにありません。

情報系、データサイエンス系の人気が上昇、医薬系は低迷

理科系の動向を詳しく見てみると、情報科学、情報工学といった情報系の志望者の伸びが顕著です。建築系は高いレベルで安定しているようですが、増える状況にありません。加えて文理両面の学際的な学びが特長のデータサイエンス系の人気が高まっています。模試を見る限り、爆発している感じです。今、データサイエンス系を学んだ人材が不足していますから。いわゆる「MUSYC」といわれる武蔵野大学、滋賀大学、横浜市立大学は人気です。

理科系でも医薬系は人気が低迷しています。医学部医学科は臨時定員増で、最も少なかったころより1,800人ぐらい入学定員が増えています。そのため以前は浪人の割合が多い系統だったのですが、浪人が出にくくなった。その結果全体として志願者が減っていることが大きな原因です。最近指摘される勤務医の厳しい労働環境も受験生に敬遠される要因の一つでしょう。その一方では、都市部で理工系学生の就職が好調ですから、医薬系志望だった受験生が理工系に流れていると思います。

2020年度入試、受験生の動向

仕事と子育ての両立を考える女子は歯学系に流れる

人気が低迷する医歯薬系にあって、女子の受験生は歯学部に流れており、歯学部の志望者は増えています。歯科医は予約診療が基本ですから、女性が結婚、妊娠、出産、育児などと仕事を両立しやすいと言われていることが要因かもしれません。

農水産・生命科学系は志望者があまり集まっていません。社会で話題になるような技術革新がないことが理由と考えられます。かつてはゲノム解析やバイオテクノロジーが注目されましたが、最近は若者が関心を示すような技術が生まれていません。スポーツ・健康系もオリンピック、パラリンピックの誘致で盛り上がった頃と比べると人気が落ちています。

女子大学はビジネスに直結した学びができる大学を中心に人気

女子大学は、2019年度は大人気でした。大規模私立大学の合格者を絞り込んだ影響もあるでしょうが、6割以上の女子大学で志願者が増えました。特にグローバル系、国際系などビジネスと結びつきの強い学部をつくったところに集まりました。国立大学でもお茶の水女子大学は現時点の模試では2020年度入試での志望者が増えています。