受験のプロが語る!2019年度大学入試の傾向と志望校選びのポイント

2021年度入試改革の狙いと対策

入試改革の背景

2021年度から入試改革を実施する理由は何でしょうか。政府、特に文部科学省、経済産業省などが言っていますが、大学での学びがそのまま実社会で役立つということが、ほとんどなくなりました。学びは大学で終わりではなく、一生勉強していかざるを得ない時代になりつつあります。AIの爆発的な普及と外国人との共生によって、2040年頃には社会の姿は大きく変わっているでしょう。そういう社会で求められるのは、「知識・技能」より「思考力・判断力・表現力」です。それが、多様な人々と一緒に働いたり暮らしたり物事を考えたりしていく力であり、今回の入試改革はそうした時代の変化に対応する力を評価するための試みなのです。

2021年度入試改革の狙いと対策

激変する社会で求められるのは「生涯学び続けていく」姿勢

昭和・平成までの時代は、自分が将来なりたい、やってみたい職業を決めて、それを実現できる学部を決め、そこに合格するために文理選択をする――という考え方で通用しました。しかし令和の時代に入った今、こうした従来の考え方はまったく役に立たなくなるでしょう。もちろん医師や看護師、弁護士など、資格と将来の職業がつながっている分野は別ですが。皆さんは、まずは「自分の好きなこと」を基準に学部・学科を決め、大学では「勉強の仕方を勉強するんだ」という意識をもって過ごし、さらに社会に出てからもずっと学び続けていくんだという心構えがないと、今後ますます激しくなる時代の変化についていけないでしょう。おそらく皆さんは75歳まで働き続ける時代に生きていくわけですから。だから、「学び続けていく」姿勢が必要なのです。

方向性は見えているのに制度設計が固まらない入試改革

ただ、やりたい方向性は決まっているのに、共通テストがいまだに「何も決まってない」と言っていい状況です。肝心な具体的な制度設計が固まらないのです。たとえば、英語の外部試験ですが、現時点でどの試験をどうやって受けるかが分からないし、受けられるかどうかも分からない。全国高等学校長協会は、英語外部試験の成績を大学に提供する「大学入試英語成績提供システム」について、去る7月25日、受験生や高校の不安解消を求める要望書を文部科学省に提出しています。我々も今後の動向を注視しているところです。

導入される記述式問題の対策には読解力を磨くことが近道

そうしたなかにあって、2021年度入試に向けてどのような対策をすればいいかと言えば、学びの基本である「本質的な勉強」を進めることです。勉強の本質とは、「読解力」です。つまり、文字を読むことと文字を書くこと。これに尽きると思います。これまで通り、「読む」「書く」の勉強をきちんとやっておけば、制度が変わっても何も不安を感じることはありません。共通テストでは、国語(現代文)と数学に記述式を導入すると言いますが、読解力を養っておけば大丈夫です。以前から駿台予備学校では、センター試験でのみ国語が必要な理系コース在籍生に対しても、1学期から読解力養成のための教材を使って、読んだり答えを自分の文章でまとめたりすることをやっています。読み書きの訓練を積んでおけば、試験本番で困ることはありません。

英語についてもいろいろと問題が指摘されますが、現時点での発表をみると、実用英語検定の準2級に合格できるレベルがあれば、出願できない大学はほとんどないので、高いハードルではありません。

2021年度入試改革の狙いと対策

推薦入試とAO入試には、大きな変化はない

推薦入試やAO入試については、たとえば筑波大学とか東北大学はAO・推薦の定員割合を2021年度から増やそうとしていますが、私立大学で増やすところは少ないです。従来とほとんど変わらない。ただ、私立大学でも指定校推薦は従来、評定平均値だけを4.3以上、ただし英語は4.0以上とか設定していたところに、英検準2級以上とか英語4技能の評価を加えようとしている大学も出てきています。それは会話力というコミュニケーション能力を評価していこうという考えですね。

現代文の実用文は問題集をこなして新聞のコラム欄を読もう

国語と英語以外の科目は、従来通りの対策で大丈夫です。数学も国語と同様、記述式問題が導入されますが、こちらは数式を書くだけですから問題はありません。理科、地歴・公民、古文・漢文も変わりません。

対策が立てにくいと思われるのが、現代文で取り上げられる文章が文学作品や評論文的なものに加えて実用的な文章が出題されると言われていることです。2017年度と2018年度に大学入試センターが実施した試行調査では、生徒会規約の改正に関する話や著作権に関する話が出ました。実用文は、これまでの入試に出ていませんので、練習しにくいかもしれません。ただ、この点については今、各社から問題集が出ていますし、駿台でも2冊すでに出版していますから、これらを使って対策を立てるのも一つの方法です。もっと身近な教材としてお薦めするのは、毎日、新聞のコラム欄を読んで、要旨をまとめる練習をすることです。

英語はすべて読解問題、過去問にはない実用的なテーマから出題される

英語も同様に、筆記(リーディング)がすべて読解問題になり、しかも文章に実用的なテーマを取り扱ったものが出題されます。プレゼンテーションの資料やブログ、料理教室のレシピ、英会話クラブのパーティーの案内状などですね。これについては、過去に私の記憶では確か1題程度、そういう内容のものが読解問題で出た程度で、ぴったりあてはまるような問題が過去問にはありません。また設問は、日本語から英語になります。おそらく今年度中には各社から教材が出てくるでしょうが、今の高校2年生にとっては、過去問がないので勉強しにくいかもしれません。

また、リスニングやスピーキング対策として、ラジオの英会話番組を毎日録音して、聞いて復唱することも良い勉強方法です。特にリスニングやスピーキングは何か講義を聞いたからといって、すぐに上達するものではありませんが、日々、英語を聞いているだけでも全然違います。ネイティブの音声をまねして話すことから始めればいいんです。

2021年度入試改革の狙いと対策

私立大学の大半が従来通りの個別試験を実施

共通テストが、国公立大学や私立大学の個別試験にどう影響するかと言えば、まず私立大学では慶應義塾大学、明治大学、法政大学、中央大学、同志社大学、立命館大学、関西大学などは、従来の入試形態を基本的には何も変えないと言っています。一方で早稲田大学の政経学部は共通テストを必須化し、青山学院大学では経済学部を除いた全学部で、学部個別型入試で共通テストを必須化。立教大学では英語外部試験を必須化というように、大きな改革を実施する大学もあります。上智大学も共通テスト利用方式を導入するなど入試制度を改革すると言っていますね。ただ、現時点で改革の実施に踏み切った私立大学は多くありません。

「当面は従来型で」というのが私立大学に多いようです。おそらく改革を実施する大学は志願者が減る可能性もありますが、「減っても構わない」という考え方です。逆に言えば、こうした大学は合格の可能性が高くなるかもしれません。

国公立大学は長期的には論述・記述式が増えるかも

国公立大学の個別試験については、現時点では難関大学であっても大半の大学に変更はありません。センター試験から共通テストに名称が変わるだけと考えているようです。そんななか、地方大学ではたとえば静岡大学の工学部が、2021年度からではなく2020年度から個別試験で英語を課します。これは読解中心の共通テストとコミュニケーション重視の外部試験だけでは駄目だと判断したからでしょう。また、千葉大学の教育学部のように個別試験の教科数を増やす大学もあります。

長期的に見れば、国公立大学の個別試験は今まで以上に記述・論述力を見るような試験に変わっていくと思います。共通テストでさえ記述式問題を導入するのだから、個別試験ではもっと記述力を評価する形式にするべきという考え方ですね。

共通テスト成績提供の後ろ倒しで併願パターンに異変が起きる?

ここまで今回の入試改革の狙いや試験対策についてお話してきましたが、2021年度入試で皆さんに一番気をつけてもらいたいのは、入試日程の確認です。いつ発表になるのか、現時点でまだ分かっていません。分かっているのは、記述式問題を導入するために採点に時間を要することから、共通テストの成績を各大学に提供するのが、2020年度対比で5日間遅くなるということです。そうすると、国公立大学はAO・推薦入試の入学手続き期間との関係で、従来の日程で個別試験を実施するのが難しくなるのではないでしょうか。私立大学では共通テスト利用入試の合格発表日が今より5日間遅れるので、国公立・私立を含めた全体の併願のパターンがだいぶ変わってしまうと思います。

たとえば東京大学の第一段階選抜も今は2月12日前後の発表ですが、17日か18日ぐらいにずれます。そうすると東京大学の第一段階選抜の結果発表を見てから、私立大学を受けている人たちが、結果を見ずに受けるということになってしまいます。もし、国公立大学の前期試験の日程が遅くなれば、早稲田大学は志願者数が増えるでしょう。今よりも国公立大学の入試との間が空きますから。入試日程については、この秋の国大協(国立大学協会)の総会で議題になるかどうかです。ここで話題にならなければ、2021年度は現行のままということになりますが。

2021年度入試改革の狙いと対策

首都圏の大学はオリンピックでオープンキャンパス日程にも注意を

学校選びという点では、オープンキャンパスの日程にも注意してください。東京では来年は東京オリンピック・パラリンピックの開催がありますから。私が聞く限り、都心部の大学はオリンピックとパラリンピックの間の期間にオープンキャンパスを開催するようです。オリンピックが8月9日に終わって、パラリンピックが8月25日から始まるので、その間ですね。他のエリアの大学は例年通りのようです。いずれにせよ、早めに志望校のオープンキャンパスの日程を調べておきましょう。

<取材日:2019年7月25日>

profile

駿台教育研究所 進学情報事業部長 石原賢一氏
石原 賢一(いしはら・けんいち)
駿台教育研究所進学情報事業部長。駿台予備学校に入職後、学生指導、高校営業、カリキュラム編成を担当後、神戸校校舎長を経て、06より現職。