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2025/12/10
統合失調症における口腔細菌叢と認知機能の関連を明らかに
東京科学大学大学院医歯学総合研究科精神行動医科学分野の田村赳紘医学部内講師、杉原玄一准教授、橋英彦教授、および同大学口腔生命医科学分野/国際医工共創研究院口腔科学センター口腔全身健康部門の大杉勇人助教、片桐さやか教授らによる研究チームは、統合失調症における口腔細菌叢と認知機能の関連を明らかにした。
陽性症状(幻覚・妄想)、陰性症状(意欲低下・感情の平板化)、解体症状(思考や行動のまとまりの障害)、そして認知機能の低下を特徴とする統合失調症は、約100人に1人が発症する比較的頻度の高い精神疾患。なかでも、持続的にみられる認知機能の低下は治療が特に難しく、日常生活や社会参加の大きな障壁となる。近年、宿主―微生物相互作用が認知機能に影響し得ることが注目され研究が進展してきた一方で、口腔細菌叢の統合失調症の認知機能との関係については、これまで十分に検証されていなかった。
研究チームは、統合失調症患者(68名)と健常対照者(32名)の唾液由来16SrRNA遺伝子配列を解析し口腔細菌叢の構成・多様性と認知機能指標(WAIS-IV)との結びつきを体系的に明らかにした。その結果、統合失調症では、口腔細菌叢の多様性が高いほど認知機能が高い傾向がみられ、その関連に特定の代謝・糖鎖関連の機能経路が関与する可能性が示された。
この成果は、低負担な唾液から得られるデータを用いて「口腔−(腸)−脳軸」の可能性を示した点に意義があり、日常的な口腔ケアやプレ/プロバイオティクス(菌活)などの介入が臨床的に有用であるかを科学的に検証していく動機づけを与えるものとされる。また、統合失調症における認知機能の維持・低下抑制を目指した取り組みが、歯科・精神科・内科・地域保健の連携のもとで、より現場に実装しやすい形へと近づくことが期待される。