2020年大学入試改革で、近未来社会が求める人物像が変わる。2018年受験の傾向

「偏差値」ではなく「興味あること」を大切に、思考力、表現力を磨いていける大学を見つけよう。

間もなくやってくる2020年大学入試改革。世界規模で技術革新が進み、私たちの暮らしは大きく変わっていくことが予想されます。近未来社会を担っていく皆さんには、どんな能力が求められるのでしょうか。そして、改革以降の入試ではどんなことが問われるのでしょうか。今回は、駿台教育研究所 進学情報事業部の石原賢一部長にさまざまな角度から今後の大学入試を展望していただきました。

2020年大学入試改革では何が問われ、どんな対策が必要か

記述式は怖くない! 落ち着いて勉強しよう

駿台教育研究所進学情報事業部長 石原賢一氏   2020年の大学入試改革についてマスコミ等で騒がれていますが、基本的には今の高校生はあまり心配する必要はないと思います。おそらく、現在の小学校6年生まではそんなに変わらない。記述式の問題が出るといって大騒ぎになっていますが、高校の定期テストや塾のテストは全部記述式なんです。予備校などが実施するマークシート式の問題を作っている高校なんて見たことがありません。つまり、高校生にとってマーク式の方が特殊な出題形式なのです。記述式になって大きく変わるぞと周囲は騒いでいますが、生徒から見れば何も怖くないはずです。科目では、英語がすごく変わるといわれました。けれども、当面は従来の試験形式が残るということになりました。早稲田大学や明治大学、立教大学、青山学院大学、法政大学などでは、すでに英語4技能利用型入試を、英語外部試験利用入試というかたちで始めていて、今後は国公立大学でもより本格的に加わるということになっただけの話です。だから高校生の皆さんは、大きな変化があるとは思わないでほしい。大切なのは、落ち着いて勉強していくことです。

問われるのは、「考える力」と「表現する力」

  ただ、勉強するうえで考えておいてほしいことがあります。それは、社会が皆さんに求めていることが変わる、ということです。皆さんの時代には、平均寿命は90歳を超えて、ガンも撲滅され、再生医療の進展で不治の病といわれた病気も治るようになるかもしれません。IT技術が広く浸透し、近い将来、単純思考まではほとんど機械がやってくれる時代が来る。では、そんな時代を生きる皆さんが大人になって社会で活躍するために必要な能力は何か。それは、物を「知っている」とか「覚えている」ということではなく、物を「考える力」や、考えたことを「表現する力」です。こうした能力がこれからの社会では最も評価されることになるのです。だから国も、今後想定される社会の変化に向けての教育に変えようとしていて、その一環が大学入試改革なんです。実際に本格的に改革が始まるのは今の小学校5年生以下の子どもたちですが、皆さんも、こうした世の中の流れをしっかりと理解したうえで、ふだんの勉強に取り組んでほしい。急な変化はありませんが、少しずつ表現力や思考力を試すような出題に変わっていくでしょうから、表現力や思考力を鍛えることを意識した勉強が大切になるでしょう。

英語では「話して聞ける」力が試される

英語では「話して聞ける」力が試される   もう一つ意識してほしいのは、英語への対応です。今もすでに、国内どこへ行っても外国人を見ない日はありません。その一方では人口は減少していきますから、モノを売ろうと思ったら海外で売っていくということになります。こうしたことから皆さんには、明治時代の人たちが共通語(標準語)を国語で勉強したようなものだと思って、英語に取り組んでほしい。英語を介して世界中の人たちと意思の疎通が図れるように、です。「読んで書く」だけではなく、「話して聞ける」英語力ですね。今回の入試改革というのは、これからの若い人たちが生きていく社会にマッチするように教育を変えていく。高校も中学校も小学校も変わりますし、大学も変わります。だから、入試も変わる。そんなイメージでとらえてもらうのが一番いいと思います。

じっくり考えることと、書く習慣を身につけよう

  「考える力」を磨くために必要な勉強として一例をあげれば、答えが簡単に見つからないような課題について、じっくり考えてみることです。数学の問題であれば別解を考える。一番いい答え、一番早くできる解き方だけでなく、「むだな答え」を見つけ出すというのも、実は役に立つんですね。そういう取り組みを大事にしてほしい。文部科学省から発表されたマークシートの改善問題でも、答えがいくつあるかわからない問題というのは正答率が悪かったですよね。社会に出ればわかることですが、世の中、答えが一つしかない、なんていうことはありませんから。「表現する力」を高めるには、紙と鉛筆を使って書くこと。とはいえ、ふだんの生活の中で、手で書く習慣がない時代です。だから例えば、新聞のコラム欄を毎日、その要旨を100字でまとめてみる。先生に見てもらったらなおいいですね。文章を書くことは、国語はもちろん、すべての科目に通用します。書いているときには当然、読み手(受け手)を意識するため、順序立てて、考えを伝えますから。

大学入試改革から見える、近未来が求める人材

主体的な姿勢と、誰とでも協調できる柔軟性をもった人材

主体的な姿勢と、誰とでも協調できる柔軟性をもった人材   気をつけてもらいたいのは、2020年大学入試改革で「変わる」ということに怯えて、自ら志望校のレベルを低くして、楽をして入ろうという気持ちにならないことです。実は今回の大学入試改革でもう一つ指摘されているのは、「主体性」、自ら積極的に物事に取り組む姿勢ですね。豊かな時代に生まれた皆さんは、主体性がやや劣っている。ところが外国人、とくに発展途上国の人たちは、主体性において非常に長けています。このままでは日本は、世界の中でだんだん目立たない国になっていきます。だから入試でも、チャレンジ精神をもって自分の力を最大限に生かせることができる大学を自分で探して、思い入れをもって志望してほしい。主体性と並んで大切なのが「協調性」です。これまで日本という国は比較的均一的な文化の社会でしたが、今やまったく私たちとは考え方や宗教、風習、慣習が異なる国や地域の人たちともうまくやっていかなければならないわけで、そうしたカルチャーショックに対して強い人間であってほしいと思います。この点については、若い人たちは結構強いと感じます。今は英語を普通に使う場面が多いし、インターネットなどでうまくコミュニケーションできていると思います。

偏差値ではなく、自分の夢を実現してくれる大学

  主体性、協調性の重要性については、とくに保護者の方に理解してもらいたい。保護者の方はお子さんのためを考え、楽な道を探してあげて、そこを歩かせようとする傾向がありますが、それは感心しません。ただ「偏差値が高い大学に行きなさい」ではなく、子ども自身が本当に行きたい、自分の夢が実現できるという大学・学部を、いろいろな観点から調べて、その大学への想いを強くもって頑張れば、大学進学後も成績は伸びますし、結果として自分の将来、行きたい方向に向かって進んでいけます。最近の中学入試では大学の附属校への志望者が増えています。大学までエスカレーターで上がれることを、保護者の人は期待しているわけです。これは一見、子どもにはいいように見えますが、むしろ多様な人々と一緒になって主体的に行動できる人になるという点では、均一的な集団で6年間、一緒にいるということは必ずしもプラスにはならないと思います。むしろ、いろいろな場面で、いろいろな経験をした人の中で揉まれることが大切ではないでしょうか。

激変する時代、子どもに好きなことをやらせよう

激変する時代、子どもに好きなことをやらせよう   今、第四次産業革命などといわれます。蒸気機関、電気、コンピュータ、そしてAIです。AIが浸透すれば、事務作業はほとんど皆無になりますし、単純労働の大半は機械がやるようになります。もうすぐです。そうすると、最後に残るのは人を扱う仕事だけになると思います。だからこそ、子どもたちがもっている夢や本来もっている力を削いでしまうような安全志向はいけません。そのためにも、お子さんには「好きなことをやらせる」ようにしていただきたい。例えば文科系が好きな子どもなのに、「いや、これからの時代は理科系でしょう」といって無理に理科系に仕向けるのは、おやめになったほうがいい。なぜなら、将来有望などとは誰も保証できない時代なのですから。今年の入試では文科系が人気で理科系は低かったのですが、4年ぐらい経つとだいたい逆になります。

<取材日:2017年7月19日>

駿台教育研究所進学情報事業長 石原賢一氏

石原賢一(いしはら・けんいち)
駿台教育研究所進学情報事業部長。
駿台予備学校に入職後、学生指導、高校営業、カリキュラム
編成を担当後、神戸校校舎長を経て、06より現職。