夏休みは大学探しの絶好のチャンス。オープンキャンパスに参加して「好きなことができる大学」を見つけよう! 2017年受験の傾向

文科系への回帰

科目負担増で敬遠された理科系。景気回復が文科系人気を後押し

 2016年度入試は、15年度からの志望の変化の流れがさらにはっきりしてきたと思います。志望系統で見た場合、文科系の人気は10年以降、14年頃まで下降していました。08年秋のリーマンショックの影響もあって就職状況が厳しくなったことから、理科系志向が強かったんです。それが15年度入試ではやや沈静化し、16年度では、さらにはっきりと文系回帰が見られました。文系人気が復活してきたのは、2つ理由があると見ています。1つは景気が若干ながら回復傾向であること。実際には都市部に限られますが、三大都市圏(首都圏・関西圏・中部圏)における景気回復に伴う就職状況の好転です。最近までの株価指数や経済指標の好調さに、受験生の保護者が敏感に反応したわけです。もう1つは、カリキュラムの問題で、理科系に進むためのハードルがこれまでで一番高くなった、ということです。センター試験における科目設定の問題ですね。一番緩かった1つ前のカリキュラムから、共通一次が始まった1979年度以降で一番厳しいカリキュラムになり、理科系に進むためのハードルが高くなりました。実はこちらの方が理由としては大きいと思っています。

 というのも、世の中ではまだアベノミクスを実感している人は少ないのが実態だと思うからです。事実、地方ではハードルが高いのを覚悟の上で、理科系あるいはメディカル系のような実学系の学部を目指す傾向が強い。なぜなら、地方では文科系の就職はまだまだ厳しいからです。公務員や金融機関、農協など、公的・半公的な機関に限られてしまいます。その点、理科系出身者は地方でも就職先があります。例えば大手企業の工場や研究所が進出していますから。ただ、若者人口でいえば、今は三大都市圏でかなりの割合を占めているので、結果的に文低理高から文高理低に変わった、と見えるんです。

2017年度以降の見通し

世界経済の変化に左右される受験生の文理選択は、現高校1年生から影響が出そう

駿台教育研究所進学情報センター長 石原賢一氏  設置別に検証すると、国公立大学の志願者数が5年連続で減っている一方、私立大学の延べ志願者数は10年連続で増えています。この要因も、1つは理科系の国立大学に進むためのハードルであるセンター試験の科目設定が厳しくなったことが挙げられますが、文科系でも理科が2科目必要になって、ちょっと大変になりました。そこで、都市部で近くに有力私立大学のあるエリアでは、「私立大学でいい」という流れが出てきた。私立大学そのものにも、受験生が増える要因がありました。学部・学科を改組して増やしたり、入試方式を増やしたり、あるいは受験料を少し安くしたりするなどの取り組みを進めたのです。

 私は2016年度入試で顕著になったこの流れは、17年度入試以降も続くと見ていました。ところが、ここにきて先行きがにわかに不透明になってきた。英国のEU離脱や、新興国の経済成長鈍化などがあって、世界経済全体に暗雲がかかってきましたね。こうした状況については専門家や評論家によって意見が異なるので、どれが正解なのかはわかりません。「リーマンショッククラスになる」と言う声もあれば、「英国が完全離脱するまで猶予期間があるので、そこまでは悪化しない」という見立てをする人もいる。ただ、17年度入試に限れば16年度入試の流れは止まりません。もう受験生は文理を決めていますから。今の高校2年生もすでに文理分けが終わっていますから、これも変わらない。文科系だった人が理科系に進路変更するというのはかなりハードルが高いからです。気になるのは、今の高校1年生たちがどう動くかです。

医療系人気が沈静化

「地域枠」のしばりで低迷したが、関西圏や地方では人気は変わらず

 理科系で特徴的なのは、医学部、歯学部、薬学部といったメディカル系の人気が沈静化したことです。ただ、看護系は国公立大学では減りましたが、私立大学はここ数年新設が多いので、入学定員が増えています。まだまだ看護師は不足していますから、増員しても卒業後の受け入れ先はあるので、少しですが増えています。医学部志望者の減少は、「地域枠(地元枠)」が影響していると思います。三大都市圏から医学部に進むのが厳しくなってきた。なぜかと言えば、地方の国立大学が地域枠を作ったからです。地域枠によって何が起きたのか。例えば札幌医科大学の2017年度の入学定員(一般入試・前期)は75名なのですが、このうち一般枠は20名にすぎません。福島県立医科大学も17年度入試から地域枠を5名増員させます。また、AO・推薦も地域枠がほとんどですから地元の受験生なら比較的楽に入れます。センター試験で8割取れなくても入れる可能性がある。東京などから一般選抜の一般枠を受験するとしたら85%くらいは必要です。そうなると、「無理してでも医学部へ」という考えは持たなくなりますよね。

 ただ、大都市圏でも関西圏は医学部人気がまだ強いです。最近でも地元の大手電機メーカーが経営危機に陥ったほか、その以前にはやはり大手の電機メーカーが経営不振から健全経営を続けていた別の電機メーカーの傘下に入るなど、関西圏の有力企業の業績が芳しくありません。そうすると受験生は、将来にわたって安定した職業として医師や看護師を考える。そういう流れですね。地方ではその傾向がもっと強く出ています。少子化の時代、地方で生活する保護者たちの心理を推察すれば、子どもにはずっと親の近くで生活してほしいと願うのではないでしょうか。地方の有力高校に通っている生徒の多くが医学系を志望するのは、必然と言えるでしょう。

人気の分野、低迷する分野

文科系では経済・商・経営に加え、グローバル系の志願者が増える

2017年大学受験  理科系で人気なのは工学系です。特に首都圏で顕著です。ロボットづくりを学べるということで機械系、それから電気・電子・情報系の人気が高まっています。理由としては、20年の東京五輪・パラリンピックに向けた技術開発です。自動運転車だけを見ても、都内のタクシー会社は自動運転車をある程度導入する予定ですし、物流においても東名高速道や中央高速道に自動運転車を導入する方向性が示されています。自動運転技術のキーテクノロジーは、通信です。GPSを使って通信を制御するには、電子機器が必要ですね。あるいは、五輪開催に向けては公共事業投資が増えますから、土木・建築系も人気が高くなっています。

 理科系で人気が低迷しているのは理学系です。就職状況があまり芳しくないと思われているためです。最近ノーベル賞を受賞した人を見ても、工学系の人が多く、理学系で理論物理とかをやった人ではなく、応用物理学や応用化学を学んできた人の受賞が多いので、そちらの方に関心が向いている、というところでしょうか。

 文科系で人気を伸ばしたのは、経済・経営・商学部系です。先に述べたように、大都市圏では景気が上向き加減になっているので、少しでも就職に有利になりそうな分野を勉強できると考えたのでしょう。もう1つのトレンドは、グローバル系です。この系統は、まだ入学定員の規模が小さいので、文科系全体に占める割合は小さいのですが、増えています。「国際〜学部」とか「グローバル〜学部」と言う名前が付いている学部ですね。最近は新設も相次いでいます。

私立大学文科系の難関校は狭き門

定員超過率の制限が強化され、私立文科系の難関大学は高いハードルに

 志願者の文高理低の傾向は入試にも反映され、理科系の門は緩くなりました。医学部も人気が沈静化した分、入りやすくなったと思います。17年度入試も医学部全体として見れば間口は広くなるでしょう。その根拠は、志望者の減少に加えて、今春は東北医科薬科大学に新しい医学部ができ、来年は千葉県の成田に国際医療福祉大学に医学部が誕生することです。

 反対に、文科系は狭き門になりました。これには、志願者の全体数が増えたということはもちろんですが、入学者の定員超過率が厳しくなったことが大きく関係しています。早慶など収容定員が8000人以上の大規模大学では、従来は1.2倍まで許容範囲だったのが、16年度からは1.17倍になり、これによって合格者数がかなり抑制されました。かなり合格者数の発表が絞り込まれました。特に私立大学は文科系の定員が大きいですから、厳しくなりました。17年度は1.14倍とさらに厳しくなります。ただし、入学定員を増やす大学が結構あります。青山学院大学や立教大学、東洋大学、立命館大学、近畿大学などです。しかし多くの定員増は、16年度と同程度の合格者を出すための手段であって、合格者の増加に大きな期待は持てません。もう1つの手段として、正規合格者を減らして補欠合格者を多く出すやり方を取る大学がありました。例えば、 関西学院大学は16年度から補欠合格制度を導入しました。そのため戸惑う受験生や保護者が多かった。文部科学省は2年後には定員超過率を1倍にすると言っていますので、私立大学文科系の難関大学は今以上に厳しくなりそうです。

受験生の2極化が進む

“積極浪人”と“どこでも入学”の分岐点は、保護者の判断

 大都市圏の難関私立大学に失敗した受験生は、近隣の次のレベルの大学に流れていきます。ただし、一定の線を引いておりいたずらに併願校のレベルを下げずにむしろ浪人の道を選んでいます。実際、私立大学文科系の浪人生は増えています。国立大学も同様で、難関大学志望の受験生は、いわゆる旧帝大や東京工業大学、一橋大学クラスで1つのグループを形成し、それに次ぐ千葉大学や筑波大学などの準難関大学から地元大までを志望する受験生とはちょっと分かれています。それで、どこでもいいからと志望変更するのではなく、もし難関大学で失敗したら浪人する、そんな流れです。

 17年度入試もこの潮流は続くと思います。ただ、今後、景気の不透明感がさらに進み、日経平均株価が1万円ぐらいまで下がったとしたら、経済・経営・商学部系では心もとないから、同じ文科系でも学際的な分野とか、あるいは看護系とか医療系など文科系からも志望可能な学部があるので、そういうところに受験生が流れるのかなと思っています。だから、看護系は今以上に人気が出るかもしれないと見ています。

 今の時代、受験生の志望先を決めるは、保護者です。保護者は経済環境や情勢の変化に敏感です。ただ、保護者は自分たちが受験生時代に描いていた大学へのイメージに引きずられている面もあります。今の保護者の方は40代半ばから50代前半が多いのですが、その頃は一番受験が厳しかった時代です。18歳人口が200万人以上でしたから、どうしても、保護者は「安全志向」になりがちです。しかし、今の受験生には、いい意味での積極浪人が生まれつつあると思うんです。その一方では、「どこでもいいから入りなさい」という安全志向の保護者もいる。ただ、今後は後者を選ぶと、たぶん将来はすごく大変になるでしょうね。

 なぜなら、今は大学を「出た」ことに意味を持たない時代になっているからです。経済成長が右肩上がりだった頃の日本の企業には、人をじっくり育てられるだけの余裕がありました。しかし、バブルの崩壊やリーマンショックを経験したことで、企業活動自体が厳しくなって、人材育成する余裕がなくなってきた。そこで、企業は即戦力を求めるようになってきたのです。今の企業で必要とされるのは、得意技を持ちながら、同時にさまざまなことに的確に対応できるゼネラリストです。だから、大学を出たときに「自分にはこれがある」という武器を持っていないと社会で通用しません。ただ、そこが保護者の皆さんにはあまり理解されていない。自分たちが若かった頃の企業のイメージがあるからです。

大学選びのポイント

どの仕事が残るかわからない時代だからこそ、「好き」が選択基準になる

2017年大学受験  こうした受験生の動向や保護者の心理をふまえて、私が大学選びの基準として考えてほしいと思うのは、「好きなことをやれる」大学を選んで欲しい、ということです。今、各大学ではキャリア教育―将来の社会的・職業的な自立に向けて必要となる知識や能力を身につけるための教育―への取り組みが盛んですが、この教育が果たして本当に将来に役立つのか、私は少し疑問に感じています。実際のところ、米国の学者の中には10年後には今の仕事のうち6割がなくなってしまうと言っている人もいます。さらに20〜30年先は、もっと激しい状況になっているかもしれません。技術革新が進めば、今ある仕事がどんどんなくなっていくかもしれません。個人的な見解ですが、今までのキャリア教育だけでは頭打ちになります。社会の変化に教育がついていけないからです。そうであれば、「好きなこと」をやってほしい。医師や看護師、弁護士などの職業に直結する進路選択というのも、「好きなこと」を基準とした選択の1つです。好きなことをやれば、好きなことをもとに新しい時代に合った挑戦ができると思います。

大学も個性の時代

改革が進む大学。受験生に求められるのは「やりたいことは何か」ということ

 これまでの教育は、主要教科をまんべんなく理解することを主眼に置いてきたために、「好きなこと」に熱中したい気持ちがスポイルされてきたように思います。ところが、スポーツや芸術を極めるために世界に飛び出している日本人がいるじゃないですか。学問も同じですね。数学ですごい才能を持っている、あるいは文学ですごい才能を持っている若者はいます。ただ、これまでの日本の教育は「苦手科目がなくて学力のバランスがいい子がいい」と、みんな思ってやってきた。その歪みにようやく気づき、考え方を変えていこうというのが、2020年に向けた大学の改革であり、高大接続の改革であり、高校学校の改革だと、私は考えます。改革によって、東京大学を頂点に確立されている今の日本の大学の序列を、変えていかないといけない。そのためには、大学そのものが変わらないと。極端な例を言えば、ある大学は多少就職支援は弱いが研究をすごく頑張るとか、反対に、研究ではあまり自慢できないが実学ではすごい、とか。そういう取り組みをすれば、それが大学の特色(個性)になるし、受験生も「好きなこと」と結びつく大学を見つけやすくなりますよね。

入試にも変化の兆し

イメージや偏差値だけで大学を選ぶと、入学後のミスマッチが生じるかもしれない

2017年大学受験  入試にも変化が現れてこようとしています。従来からの学力評価だけでは変革する時代についていけないからです。例えば英語。今後の入試で試されるのは「聞く」「読む」「話す」「書く」の4技能ですが、それに加えて「判断力」や「表現力」、さらには「コミュニケーション能力」や「プレゼンテーション能力」なども試して、個性豊かな受験生を採るようになるかもしれません。当面は全体の募集人員のわずかになると思いますが。国立大学の上位校でも、東京大学の推薦入試や京都大学の特色入試、17年度からは大阪大学が世界適塾入試を実施します。筑波大学などでも、将来はAC(AO)入試の募集人員の割合をさらに増やそうという考えもあるようです。大学は個性の時代であることをしっかり認識しています。だから、いつかはこれまでのような入試が様変わりするかもしれません。

 文部科学省は17年の3月までにアドミッション・ポリシー(入学者受け入れの方針)、カリキュラム・ポリシー(教育課程の方針)、ディプロマ・ポリシー(卒業認定の方針)を公表することを求めています。これは、一つの大学選択の判断材料になると思います。偏差値は高いけど、その大学に進学したら自分のやりたいことができないかもしれない。偏差値は低いかもしれないけど、自分のやりたいことがぴったりだとか。例えば留学。グローバル系の学部がたくさん新設されていますが、ある大学は東アジアや東南アジアに強く、またある大学は北米に強いとか、みんな違うわけです。「将来は医師になりたい」という人でも、臨床医なのか研究医なのか、目指す医師像によって選ぶ大学も変わってくるはずです。逆に言えば、臨床医を目指していたのに入った大学が研究医の育成に力を入れているとしたら、たとえ偏差値は高いかもしれませんがミスマッチが生じてしまいます。

「なりたい自分」を見つける夏休み

夏休みを利用して、オープンキャンパスや学校説明会に積極的に行ってみよう

 ミスマッチを防ぐためにも、まずは「自分が好きなこと」で大学を探してみませんか。勉強はもちろん大切ですが、それと同等に、自分が本当に好きなことは何なのかということを考えてみる。好きなことを学べる学部、学科、カリキュラムがあるかというのを調べることが大事です。そういう意味では、夏休みは絶好の機会です。オープンキャンパスや学校説明会が各大学で開催されますから、調べて積極的に足を運んでほしいと思います。

 とはいえ、「今はまだ好きなことがありません」という人もいるでしょう。それでもやはり、見つけてほしいし、見つけることから志望大学へ入るんだという夢が始まるのだと思います。まずはこの夏休みを利用して、オープンキャンパスや学校説明会に足を運び、見て聞いて感じてほしい。そして、今後大学が公表する3つの指針をしっかり読んでもらいたいですね。単に偏差値だけで選んでしまうと、ミスマッチを起こしてしまう可能性もあります。どの学部でも、その大学の得意としている分野があると思いますから、それをしっかり調べたうえで進んでください。勉強するにしても、単に受験のためではなくて、将来の「なりたい自分」になるのだから、やる気だってもっと出てくると思います。
駿台教育研究所進学情報センター長 石原賢一氏

Profile石原賢一(いしはら・けんいち)
学校法人駿河台学園駿台教育研究所進学情報センター長。
駿台予備学校に入職後、学生指導、高校営業、カリキュラム
編成を担当後、神戸校校舎長を経て、06より現職。