今回は、駿台教育研究所 進学情報センター 石原賢一センター長にお話を伺いました。
石原氏は長年にわたり大学入試対策をされてきている、いわば受験のプロフェッショナルです。
前半では今年のセンター試験の傾向や人気の高い学部の系統やエリアの傾向について、
後半は今後の入試改革までの見通しや、その後に予想されることについて、
解かりやすく説明していただきました。
CONTENTS 後半
2020年の大改革までは大きな変化はなく、一般入試受験者は強気の傾向
今後の見通しですが、2020年度入試までは現行のシステムで続くので、実際には2020年の1月のセンター試験までですが、これからたぶん、そんなに大きな変更はないはずです。次の大改革が見えていますから。だから、理科の負担が増えましたが、16年度は明らかに盛り返しています。また、一般入試を受けてくる層の根底には、難関大志向があります。なぜかというと、将来を考えた場合に不安感があるから。ある程度、新課程入試が落ち着いてくれば、高めというか強気の志望が続くでしょう。実際、16年度もすでに強気の傾向は出ています。新課程になっても、今とシステムが変わらない限りは、やることは変わりませんから。数学と理科は変わりましたが、今度からは過去問もそろってくるし、不安感は払拭されてきます。指導する高校も慣れてくるから、どんな対策をすればいいか分かってきますし。翌年に新システムを控える20年度は、たぶん通用しないでしょうが、一般入試を受けてくる層では19年度までは、わりと前向きで強気な志望が続くと思います。上位層以下の人の入試のほとんどは、現実として学力不問型入試です。これはかわいそうですけどね。次のシステムになったら、それを認めないというシステムに変わります。なので、新しいシステムで入ってくる人たちの層が社会に増えていけば、たぶん苦しい目に遭うと思われるので、本当は学力不問入試には乗らないほうが正解なのですが…。
理科、数学以外は新課程の影響はまったくない
国語、地歴、公民、外国語が16年度から新課程になりましたが、その影響は大きくはありません。出題形式を変えない限り変わりませんね。例えば英語で新たにスピーキングの試験を実施するとかになれば、対策が変わるから大きく変わるでしょうが、今と同じ形式で出題される限り、そんなに影響はない。国語も受験生から見たら、そんなに変わらないですよ。地歴、公民にしても、地理は一応、毎年統計値が変わるでしょうが、歴史は変わりません。出題のされ方の大きな変更もしばらくはないでしょう。これに対して、理科と数学はカリキュラムが変われば教科書の範囲が違いますから、これはつらいと思います。今まではきちんとサンプル問題みたいなものを出してきていたのに、今回はほとんど出しませんでしたから。かつてのリスニング導入時だってサンプル問題を出したじゃないですか、導入のときには。今回はサンプル問題が出ないわ、それから理科系の理科で選択問題を作ると言いながら、どんな形式で選択問題を出題するかも明かさない、それだったら準備ができないですよね。それで面食らってしまった受験生が多かった。
科目負担を増やす大学は、浪人生の志願者を減らす
一度入試が落ち着くと、じっくり腰を据えて準備できますから、ならば少しでもレベルが高いところを狙おうという気持ちは強いと思います。変更が多いと、まずは合格だというので、俗にいう安全志向になる。そういうものです。落ち着くとは言うものの、例えば今回ですと、国公立大学の個別試験で英語にちょっと負荷を掛けるような流れが見られます。負担を増やした当該年度は志願者が減ります。一番大きい原因は浪人生です。浪人生は現役で落ちたところを翌年受けることが多いですが、そのときに負担が増えているのは嫌だから、その分だけは減りますね。現役には関係ありません。要するに国公立大学を受ける人は、基本的に5教科7科目は勉強しているからです。私立大学の場合、科目を絞っている人が多いので影響も大きいんです。しかし、国立大学の受験生は5教科7科目はやっているわけだから、その影響は少ない。ただ、浪人生は去年やった準備以上のことをやるというのは嫌だから、それだったら違う大学ということは出てきます。
科目の増減のトレンドとしては、国立大学では、個別試験に負担を多くしていくという流れはあります。例えば電気通信大学も今年から英語と数学と理科は1科目だったのに2科目にするということで、やっぱり負荷を大きくしています。東京農工大学もそう。理科2科目を一部の学部で課しました。英語を加えるところも見られますし、千葉大学は配点を2次試験重視にするなど、そういう動きが事実としてあります。しかし、20年の新しいシステムになれば、ちょっとまた流れが変わるかもしれないと思っています。
私立大学で科目負担増というのはあまりないですね。むしろ早稲田大学では文学部と文化構想学部で、センター試験利用で個別試験を課さない、センターだけでいいという方式をあらたに始めます。私立大学は“両面作戦”ですね。センター試験利用でも負担を重くして、国公立大併願層を取ろうという狙いと、地方からも受けやすいセンターのみという型を作っておいて、受験者数を確保しようという作戦です。ここでの問題は、志願者が減ってでもいいから質を上げようという考えではない、ということです。
今後、また理系に人気が戻るかと言えば、これはそう簡単に戻らないでしょう。上位層志望者は別ですが。同じ理科系でも国公立大学を回避して家から通える私立大学へ。特に都市部はそうですね。保護者の方も無理して、地方大学に行かざるを得ない学力ならば、自宅近くのMARCHだとか、東京都市大学、芝浦工業大学、東京電機大学、工学院大学、私のいうところの、いわゆる“東芝電工”クラスでもいいわけですね。都市部は。関西も一緒だと思います。
英語の外部試験利用は今後も増える。ネット出願もさらに広がるだろう
出題の傾向でもう一つ。英語は外部試験を利用する大学が増えていますが、これはもっと拡大すると思います。新テストでも今のセンター試験と同じように、自前の英語の試験が残ったとしても、例えばTOEFLで何ポイント以上取っていたらレベル認定してあげる、というような方式が出てくるでしょう。昨年から上智大学が導入して、今年は青山学院大学、法政大学、立教大学、東洋大学。西では立命館大学と関西学院大学。来年から早稲田大学などですが、どんどん増えるはずです。大学だけでなく受験生にもマイナスがないからです。必須化すれば色々と問題はありますが、必須化してないわけではなく、全体のある一部の定員を使うだけですし。特に英語が得意な人なら。現在導入している私立大学の多くでは取得して2年間はその資格を認めていますから、今年取ったら来年まで使えるはずです。だから、高校2年にチャレンジして取っておけば、3年になってから英語の対策が不要になる場合もあります。
インターネット出願については、国立大学でももっと増えると思います。京都大学、九州大学でも17年度入試から導入されます。私立大学ですと、ネット出願による検定料割引による志願者増の効果も期待できまし、結果として併願数が増えています。また、新テストになってからでしょうが、いずれは調査書のデジタル化もやるのではないでしょうか。
新テスト導入で、大学の序列に大きな“地殻変動”が起こる可能性
今後の入試で大きな地殻変動があるとしたら、やはり新テストの制度設計とそれに伴って予想される大学の序列の大きな変動です。それが見えてくると大きく変わると思います。今までの制度改革ではすぐには変動は起きなかったです。なぜかというと、情報が伝わらないから。今回は、今はインターネットがあって、すぐ伝わる方法がありますから、それが見えてきた場合には相当な地殻変動があると思います。ただし、現時点でどうなるかは何も分かりません。なぜなら、大きな変動の経験値が1回しかないからです。根本から入試が変わったのは、戦後では1回だけ、昭和54年度の共通1次試験の導入です。これをきっかけに、それまでの常識が全部変わっちゃったわけです。今度の新テストで、どういう大学がどのようなカテゴリー、グループ分けになるのか、国公立大学は何校出願できるのか、国公立大学の個別試験はいつ実施されるのか…。しかも、各大学はアドミッションポリシーで出願要件として、段階評価で示される評価テストの成績も具体的に示しなさいと言われています。そうすると明確な序列ができるわけです。まだまったく分かりませんが、少なくとも2018年の夏までには分かります。2年前告知ですから。
20年度入試を受験する人たちは、全部制度が分かって受けるのですからいい。かわいそうなのは、今の高校2年生や高校1年生です。大学に入って、ちょうど3年生ぐらいのときにシステムが分かってしまう。共通1次試験や昭和62年度のA・B連続受験導入のとき、当時はネットがなかったから、詳細な情報がすぐに流れなかった。出たとしても教育関係者の中でしか見られなかった。今度は全部露わになりますから、何が起こるか私たちも分かりません、初めてですから。言えることは、国公立大学は大丈夫です。どこも学力不問入試なんてありませんから。センター試験を課していますからね。対して、私立大学の学力不問入試というのはきついです。あるいは、同じ私立大学でも、学力を問わないような方式で入っている人です。ただ、今回の入試改革の一番の狙いがそこにあるんですね。「大学を出ました」といっても、何にも社会で役立つものを身に付けることなく卒業させてしまっているようでは困る、ということなのですから。
中堅クラスの大学が実力を発揮するときがくるだろう
新テストは、大学の人材育成の姿勢を問うものだとも言えます。例えば今、理科系でいえば、芝浦工業大学や金沢工業大学などは、かつてに比べて非常に評価が高い。就職も良いし、学生が伸びる度合いも高いです。入学レベルもアップしています。そのため、金沢大学工学部を前期で受けて、後期は滑り止めで富山大学の工学部を受けた人が、金沢大学に落ちて富山大学に合格しても、それを蹴飛ばして金沢工業大学に行くというのが、今、北陸では結構普通の話になっているんです。伸びている大学は、今後も残っていきます。
今の時代、企業では終身雇用制が崩れ、企業も新入社員に時間をかけて育てることができなくなった。だから、どちらかと言えば、今の若者に必要なのは「良い大学に入る」ことではなく、「いろいろなことをやらせてもらえる」大学かどうかが、選ぶ基準です。高校生には、難易度ではなく、自分の今持っている素養や、やりたいことを見極めてほしい。それが学問ある必要はありません。例えばスポーツで、この大学はサッカーが強いから、僕はサッカーをやるんだとか。別にプロ選手にならなくてもいいんです。サッカー部で得たことが必ず役に立ちますから。でも、そういうところを保護者の方は分かってない。彼らが言うところの有名大学は、ほとんど一般入試で評価された時代の基準です。現在のようにAO入試や指定校推薦がないし、系列校から上がる以外はほとんど実力主義でしたから。今はそうではない。企業も気が付いてきています。だから、保護者の方も切り替えなければいけない。偏差値が高い大学に入れのではなく、自分のお子さんが、いろいろなことができる大学に入れなければいけない。つまり、教育に力を入れている大学が多くの場合、伸びています。そして、そうすればだんだんと研究レベルもアップしていくわけです。
私は、中堅クラスの大学から思い切り良くなるところが出ると思います。ポイントは習熟度別の教育の導入ですね。同一学部在籍生全員が一緒のカリキュラムである必要はありません。入った経緯が違うのですから。私立中学とか高校で言うところの“特進クラス”のようなシステムですね。私立高校でも、一クラスだけ東大対策のクラスがあれば分かりやすい。保護者の方も、そのクラスに入れようか、となります。そういうシステムにすればいいんです。ところが大学でそれを実践することは、なかなか難しいところがある。とはいえ、今回の入試改革で、ひょっとしたら良い意味で大きく変容する大学が出ると思います。
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