夏休みは大学探しの絶好のチャンス。オープンキャンパスに参加して「好きなことができる大学」を見つけよう! 2017年受験の傾向

受験生の2極化が進む

“積極浪人”と“どこでも入学”の分岐点は、保護者の判断

 大都市圏の難関私立大学に失敗した受験生は、近隣の次のレベルの大学に流れていきます。ただし、一定の線を引いておりいたずらに併願校のレベルを下げずにむしろ浪人の道を選んでいます。実際、私立大学文科系の浪人生は増えています。国立大学も同様で、難関大学志望の受験生は、いわゆる旧帝大や東京工業大学、一橋大学クラスで1つのグループを形成し、それに次ぐ千葉大学や筑波大学などの準難関大学から地元大までを志望する受験生とはちょっと分かれています。それで、どこでもいいからと志望変更するのではなく、もし難関大学で失敗したら浪人する、そんな流れです。

 17年度入試もこの潮流は続くと思います。ただ、今後、景気の不透明感がさらに進み、日経平均株価が1万円ぐらいまで下がったとしたら、経済・経営・商学部系では心もとないから、同じ文科系でも学際的な分野とか、あるいは看護系とか医療系など文科系からも志望可能な学部があるので、そういうところに受験生が流れるのかなと思っています。だから、看護系は今以上に人気が出るかもしれないと見ています。

 今の時代、受験生の志望先を決めるは、保護者です。保護者は経済環境や情勢の変化に敏感です。ただ、保護者は自分たちが受験生時代に描いていた大学へのイメージに引きずられている面もあります。今の保護者の方は40代半ばから50代前半が多いのですが、その頃は一番受験が厳しかった時代です。18歳人口が200万人以上でしたから、どうしても、保護者は「安全志向」になりがちです。しかし、今の受験生には、いい意味での積極浪人が生まれつつあると思うんです。その一方では、「どこでもいいから入りなさい」という安全志向の保護者もいる。ただ、今後は後者を選ぶと、たぶん将来はすごく大変になるでしょうね。

 なぜなら、今は大学を「出た」ことに意味を持たない時代になっているからです。経済成長が右肩上がりだった頃の日本の企業には、人をじっくり育てられるだけの余裕がありました。しかし、バブルの崩壊やリーマンショックを経験したことで、企業活動自体が厳しくなって、人材育成する余裕がなくなってきた。そこで、企業は即戦力を求めるようになってきたのです。今の企業で必要とされるのは、得意技を持ちながら、同時にさまざまなことに的確に対応できるゼネラリストです。だから、大学を出たときに「自分にはこれがある」という武器を持っていないと社会で通用しません。ただ、そこが保護者の皆さんにはあまり理解されていない。自分たちが若かった頃の企業のイメージがあるからです。

大学選びのポイント

どの仕事が残るかわからない時代だからこそ、「好き」が選択基準になる

2017年大学受験  こうした受験生の動向や保護者の心理をふまえて、私が大学選びの基準として考えてほしいと思うのは、「好きなことをやれる」大学を選んで欲しい、ということです。今、各大学ではキャリア教育―将来の社会的・職業的な自立に向けて必要となる知識や能力を身につけるための教育―への取り組みが盛んですが、この教育が果たして本当に将来に役立つのか、私は少し疑問に感じています。実際のところ、米国の学者の中には10年後には今の仕事のうち6割がなくなってしまうと言っている人もいます。さらに20〜30年先は、もっと激しい状況になっているかもしれません。技術革新が進めば、今ある仕事がどんどんなくなっていくかもしれません。個人的な見解ですが、今までのキャリア教育だけでは頭打ちになります。社会の変化に教育がついていけないからです。そうであれば、「好きなこと」をやってほしい。医師や看護師、弁護士などの職業に直結する進路選択というのも、「好きなこと」を基準とした選択の1つです。好きなことをやれば、好きなことをもとに新しい時代に合った挑戦ができると思います。

大学も個性の時代

改革が進む大学。受験生に求められるのは「やりたいことは何か」ということ

 これまでの教育は、主要教科をまんべんなく理解することを主眼に置いてきたために、「好きなこと」に熱中したい気持ちがスポイルされてきたように思います。ところが、スポーツや芸術を極めるために世界に飛び出している日本人がいるじゃないですか。学問も同じですね。数学ですごい才能を持っている、あるいは文学ですごい才能を持っている若者はいます。ただ、これまでの日本の教育は「苦手科目がなくて学力のバランスがいい子がいい」と、みんな思ってやってきた。その歪みにようやく気づき、考え方を変えていこうというのが、2020年に向けた大学の改革であり、高大接続の改革であり、高校学校の改革だと、私は考えます。改革によって、東京大学を頂点に確立されている今の日本の大学の序列を、変えていかないといけない。そのためには、大学そのものが変わらないと。極端な例を言えば、ある大学は多少就職支援は弱いが研究をすごく頑張るとか、反対に、研究ではあまり自慢できないが実学ではすごい、とか。そういう取り組みをすれば、それが大学の特色(個性)になるし、受験生も「好きなこと」と結びつく大学を見つけやすくなりますよね。

入試にも変化の兆し

イメージや偏差値だけで大学を選ぶと、入学後のミスマッチが生じるかもしれない

2017年大学受験  入試にも変化が現れてこようとしています。従来からの学力評価だけでは変革する時代についていけないからです。例えば英語。今後の入試で試されるのは「聞く」「読む」「話す」「書く」の4技能ですが、それに加えて「判断力」や「表現力」、さらには「コミュニケーション能力」や「プレゼンテーション能力」なども試して、個性豊かな受験生を採るようになるかもしれません。当面は全体の募集人員のわずかになると思いますが。国立大学の上位校でも、東京大学の推薦入試や京都大学の特色入試、17年度からは大阪大学が世界適塾入試を実施します。筑波大学などでも、将来はAC(AO)入試の募集人員の割合をさらに増やそうという考えもあるようです。大学は個性の時代であることをしっかり認識しています。だから、いつかはこれまでのような入試が様変わりするかもしれません。

 文部科学省は17年の3月までにアドミッション・ポリシー(入学者受け入れの方針)、カリキュラム・ポリシー(教育課程の方針)、ディプロマ・ポリシー(卒業認定の方針)を公表することを求めています。これは、一つの大学選択の判断材料になると思います。偏差値は高いけど、その大学に進学したら自分のやりたいことができないかもしれない。偏差値は低いかもしれないけど、自分のやりたいことがぴったりだとか。例えば留学。グローバル系の学部がたくさん新設されていますが、ある大学は東アジアや東南アジアに強く、またある大学は北米に強いとか、みんな違うわけです。「将来は医師になりたい」という人でも、臨床医なのか研究医なのか、目指す医師像によって選ぶ大学も変わってくるはずです。逆に言えば、臨床医を目指していたのに入った大学が研究医の育成に力を入れているとしたら、たとえ偏差値は高いかもしれませんがミスマッチが生じてしまいます。

「なりたい自分」を見つける夏休み

夏休みを利用して、オープンキャンパスや学校説明会に積極的に行ってみよう

 ミスマッチを防ぐためにも、まずは「自分が好きなこと」で大学を探してみませんか。勉強はもちろん大切ですが、それと同等に、自分が本当に好きなことは何なのかということを考えてみる。好きなことを学べる学部、学科、カリキュラムがあるかというのを調べることが大事です。そういう意味では、夏休みは絶好の機会です。オープンキャンパスや学校説明会が各大学で開催されますから、調べて積極的に足を運んでほしいと思います。

 とはいえ、「今はまだ好きなことがありません」という人もいるでしょう。それでもやはり、見つけてほしいし、見つけることから志望大学へ入るんだという夢が始まるのだと思います。まずはこの夏休みを利用して、オープンキャンパスや学校説明会に足を運び、見て聞いて感じてほしい。そして、今後大学が公表する3つの指針をしっかり読んでもらいたいですね。単に偏差値だけで選んでしまうと、ミスマッチを起こしてしまう可能性もあります。どの学部でも、その大学の得意としている分野があると思いますから、それをしっかり調べたうえで進んでください。勉強するにしても、単に受験のためではなくて、将来の「なりたい自分」になるのだから、やる気だってもっと出てくると思います。
駿台教育研究所進学情報センター長 石原賢一氏

Profile石原賢一(いしはら・けんいち)
学校法人駿河台学園駿台教育研究所進学情報センター長。
駿台予備学校に入職後、学生指導、高校営業、カリキュラム
編成を担当後、神戸校校舎長を経て、06より現職。