大学入学共通テストの初年度結果から見える2022年度入試に勝つためのヒント

初めて実施された大学入学共通テスト。新形式の問題は現役生に有利に働いたようです。入試改革は受験生に求める資質をどう変えたのか。2022年度入試に向けてどんな準備をすれば良いのか。駿台教育研究所進学情報事業部の石原賢一部長にお話をうかがいました。

入試改革とコロナ禍が影響した2021年度入試

2021年度入試、志願者動向の特徴を総括する3つのC

駿台教育研究所進学情報事業部長 石原賢一氏

2021年度入試の全体的な特徴を、私たちは「3C入試」と総括しています。

まず、コンパクト(Compact)な入試だったということ。新型コロナウイルスの影響で多くの受験生は、自宅近隣の大学しか受験しませんでした。受験大学のレベルでは、チャレンジもしないし超安全志向もなくなり、受験校数を絞り込む傾向がありました。

2つ目のCはコンサバティブ(Conservative)です。非常に保守的でしたね。変革を嫌ったわけです。出題形式を変えてきた大学は敬遠されました。従来の一般選抜を共通テスト併用方式に変え、大学個別試験を記述・論述試験や小論文などを導入した上智大学、早稲田大学(政治経済学部、国際教養学部)、青山学院大学(経済学部を除く)の志願者は激減しました。大学入学共通テスト(以下、共通テスト)利用型の入試を実施する私立大学志望者も減りました。また、コロナ対策として共通テストの結果だけで合否を判定した横浜国立大学の一部の学部、宇都宮大学、信州大学の一部の学部でも志願者が減っています。

そして3つ目のCは安価(Cheap)な入試です。コロナ禍によるご家庭の経済状況の悪化が自宅通学志向者を増やしました。一方では受験料減免の効果で志願者を増やした大学もあります。千葉工業大学、大阪産業大学はいずれも増えています。学費が高額な学部・学科の人気は下がりました。顕著だったのは医学部医学科で、国公立大学は久しぶりに前期がわずかに増えましたが、私立大学には志願者があまり集まりませんでした。不景気の時は理系が人気になると言われましたが、学費が高いため敬遠されたのでしょう。そんな中で地方大学の医療・看護系を志願する傾向は強まりました。理由は、コロナの影響で地域のほとんどの産業が大打撃を受け、卒業後の就職に希望がもてなかったからでしょう。

私立大学の志願者は前年度比14%減、文系の減少幅が大きい(数値は4/16現在に修正)

志願者の動向を設置別に検討すると、国公立大学は前年度比3%減にとどまっていますが、私立大学は前年度比14%減(4/16集計時点)。どちらも浪人生の減少が影響しており、難易度に関係なく減っています。文理別では私立大学では文系に比べて理系の減り方は少ないです。文系は従来、一人当たりの併願校数が多かったのですが、2021年度は併願校数が絞り込まれました。もともと、難関大理系で学内併願が可能なのは東京理科大学くらいで、早稲田大学も慶應義塾大学も試験日の関係で1回しか受けられないことが、減少を押しとどめた理由だと思います。

共通テストはコロナ禍でもしっかり準備してきた現役生が強かった

共通テストはコロナ禍でもしっかり準備してきた現役生が強かった

初めて実施された共通テストの受験動向を見ると、浪人生の志願者数は2020年度から2万人も減りました。これは、過去最高の減少です。共通テストの1回目であることが不安要素として浪人生の心理に働いたのでしょう。見方を変えれば、2020年度入試で大学に入ってしまった現役生が多かったとも言えます。

初めての共通テスト、しかもコロナ禍での実施には不安もあったでしょうが、不安は取り越し苦労だったようです。一般選抜を狙った多くの受験生はコロナで学業が遅れることはなかったし、結果的にかつてなく現役生の合格者が多く出た年になりました。全体の平均点も下がらず、東京大学の合格者も公立高校の現役生が強かったことがわかっています。

現役生が強かったのは、入試改革に向けた準備をしっかりとしていたからでしょう。共通テストでは実用的な内容の問題が出ました。例えば英語ではチャットの画面が使われましたが、入試改革に対応した準備をしていた現役生は難なく対処できました。英語は当初、英検やTEAP、GTECといった外部試験を受けることになっていたので、現役生は高校1年生の頃から外部試験を通して実用的な英語への対応力をつけていたようです。

得点調整の実施など出題に課題を残した共通テスト

共通テストでは出題上の課題が残りました。科目間の難易度をそろえることに失敗して、1979年に始まった共通一次試験以来、初めて2教科で得点調整をやらざるを得なかったからです。得点調整を行わなかった科目についても、例えば理科@でも2科目の選択パターンによって得点差が大きくなりました。これは、すべての教科・科目の問題を新たに実用的な内容にしたことの影響で、出題者側に課題を残したと言えるでしょう。

入試改革がアカデミズムとしての大学の存在意義を変える

入試改革がアカデミズムとしての大学の存在意義を変える

入試改革をきっかけとして、大学教育のあり方が変わろうとしています。約800弱ある大学のうち、「競争=倍率」が存在しているのは200校程度。7割ほどの大学入試では競争が存在していません。7月には文部科学省の学校基本調査が公表されるでしょうが、2021年度は定員割れした私立大学が40%を超えるのではないでしょうか。

今の大学は、先進資本主義国である日本の中で、最低限社会活動を営むための知識や考え方を身につける場です。アカデミズムとしての大学の存在意義は薄れ、研究者や学者になろうという人はごくわずかになりました。大学で最低限の高等教育を受けようという人たちを判定するためには、共通テストのような内容・形式になっていくのは必然と思います。

知識量よりもコミュニケーション能力を見極める入試に

入試形態の変化は、社会の変化と密接に結びついています。若者の読書離れが進み、他者とのコミュニケーションに求められた「読む」「書く」ことの必要性がなくなりつつあります。ネット社会の功罪とも言えます。SNSで短文は書きますが、それは自分と親しい人たちだけとコミュニケーションを取るためにすぎません。今の若者には、人に伝える、理解してもらうという本来のコミュニケーション能力が不足しているのです。共通テストでコミュニケーション能力を見極めるような出題が主流になっているのは、こうした形態の入試問題で受験生を評価せざるを得なくなってしまったという背景があると、私は思います。