受験のプロが語る!2019年度大学入試の傾向と志望校選びのポイント

2019年度の大学入試で人気になりそうな学部・学科は?
2020年の入試改革を控え、出題や試験方法に変化はあるの?
入学定員の厳格化はどんな影響が出ているの?
駿台教育研究所 進学情報事業部の石原賢一部長に2019年度入試を展望していただきました。

2019年度入試、受験生の動向

文科系は経済・経営・商学が人気の一方、法学系は伸び悩む

駿台教育研究所進学情報事業部長 石原賢一氏

2019年度入試は、前年度(2018年度)と大きな変化はないとみています。系統別では文科系、特に経済・経営・商学系に人気が集まりそうです。理由の一つは、比較的景気が良く、卒業生の就職状況もいいから。もう一つは数学でも受験可能な場合が多いことで、文理選択で迷っている人にとっては魅力でしょう。一方グローバル系は、設置する大学が増えてきたこともあり人気は前年程度で、ちょっと落ち着いてきた印象です。

好調な就職状況によって、受験生は資格取得を目的とした系統に走らなくなりました。主に、ビジネス関係を学べる学部を持っていない女子大学の人気が低迷しているのはそのためです。何らかの資格を持つよりも、例えばグローバル経済を学んだほうが就職に有利と考えるわけです。法学系も伸び悩んでいます。今、法曹界は厳しい環境です。たとえ司法試験に合格しても、弁護士事務所に就職するのさえなかなか大変です。また公務員、特に上級公務員に対するネガティブな話題が多いことも、要因といえるでしょう。

文科系人気は先に述べた理由のほか、理科系に進むためのハードルが高くなっていることがあげられます。現行の入試制度では理科の科目負担がかなり重い。センター試験まで、つまり前年の12月までに理科の教科書を2冊、例えば物理と化学を2冊、全範囲を終わらせなければなりませんから。また、「文転」もしにくくなりました。かつては理科系からの文転は、高校3年生になってからでも可能でしたが、現在はセンター試験で受ける理科が文理で分かれているので、理科系から文科系には簡単に変えられないのでしょう。

理科系は工学系が好調。首都圏の医・歯・薬系は敬遠される傾向

2019年度入試、受験生の動向

理科系では工学系人気が続きそうです。中でも電気・電子・情報系は、AI、ICT、IoT関連を学べます。これらの分野はニュースでも毎日のように取り上げられており、受験生や保護者の皆さんの関心も高い。土木・建築系も好調です。最近は大規模な自然災害が多く、防災や社会的インフラの再整備に社会全体が注目していることが背景にあると考えられます。

逆に低迷が続きそうなのが医・歯・薬系です。特に医学部医学科(以下「医学科」)は、首都圏での人気が下がっている。これには二つの理由があります。一つは、理科系の就職が悪くないので、無理しないという考え方。もう一点は、首都圏の医学科が軒並み難関であることです。加えて、地方大学の医学科には地域枠があり、地域外受験生の募集枠が小さいためです。これらの要因から首都圏の受験生は医学科を無理して狙わないというのが、受験生の心境だと思います。ただし、地方の受験生には地元の医学科は人気があります。就職環境が厳しい地方にあって、医学、薬学、看護など医療系の就職は良好だからです。

国公立大学文科系は科目負担が志望に反映

設置別では、国公立大学への志望熱が以前より弱くなっています。私立大学よりも科目負担が大きいからでしょう。文科系でも理科が2科目ですから。2020年の入試改革からは、今以上に国公立大学の負担が重くなるので、特に都市部の受験生は私立大学の文科系に舵を切るでしょう。一方、理科系志望者は逃げにくいのが現状です。私立大学と国公立大学では学費が相当違うためです。ただ、文科系はそんなに差はありません。そのため、文科系の受験生は国公立大学志向、私立大学志向というよりも、科目負担の有無が志望に影響していると思います。

英語の外部試験導入が進み、医学科は面接重視に

2019年度入試、受験生の動向

新制度入試への移行期にあたる今、あえて入試の仕組みを変える大学は多くありませんが2021年度入試から制度変更する大学は多いと思います。すでに、筑波大学は2021年から東京大学のように文理一括募集になります。また、7月31日に発表されましたが、東京外国語大学が個別試験の英語でスピーキングの試験を実施することになりました。

そんな状況下で新制度入試までに変化が進んでいるのは、私立大学では英語の外部試験利用型入試の拡大です。2021年度から準必須化、国立大学は必須化されるわけですから、利用大学が増えるのは当然といえます。また、医学科での面接重視により、第一段階選抜を厳格化する動きがあります。筑波大学医学群医学類の来年度入試では、一次試験を通過できる人数が今年度の半分以下に。東京大学も理科三類が4倍だった第一段階選抜を3.5倍に変更します。

入学定員の厳格化により首都圏・関西圏の私立大学は難化

入学定員の厳格化によって、首都圏・関西圏の私立大学は、おおむね難化しました。前年度から合格者を3割以上絞った大学もあり、中堅といわれる大学まで難易度がアップしています。首都圏の比較的合格目標ラインが低かった大学、あるいは埼玉・群馬・栃木など周辺部の大学も同様です。また、首都圏周辺から少し離れた大学でも、定員充足率がアップしたり、合格目標ラインがアップしたりする結果となりました。

とはいえ、地方の私立大学全体でみると、厳格化の影響は波及していません。志願者も増えたとはいえず、一部の私立大学では志願者が減っています。要因は、人口減少の影響が大きいでしょう。ですから、首都圏の大学が合格者を絞れば地方大学の志願者が増えるという状況にはなっていません。

現役合格への意識が薄れ、私立大学文科系は浪人生が増加

2019年度入試、受験生の動向

今の受験生は、自分が目指していたランクの入試に失敗したら、その下のレベルの大学で妥協するとは言い切れません。最終的に合格できた大学にもよりますが、浪人を選択する人が増えています。全体の浪人数は増えていませんが、私立大学文科系に限れば、2割ほど増えていると思います。「何が何でも現役で大学へ」というのは、少し薄れてきました。経済状況というより、保護者の方の意識の変化でしょう。

受験生の保護者世代は、現役で進学することが将来にプラスに働かなかった時代を経験していますから、「どこの大学でもいい」という意識がない。これから少子化はさらに進みますし、大学の数も必ずしも現状のままとは言い切れません。そうすると受験生も保護者も、15年後、20年後にもあるだろう大学へ入学したいと考えるわけです。だから、新しい大学であっても、特徴ある教育に取り組んでいるところの人気は高いですし、伝統校には伝統校としての強みがありますから、結果としてどこでもいいという気運にはなりません。実際、定員が厳格化したからといって、それほど併願校の数は増えてはいません。

一般方式で例年より1校多く出願するのがベスト

2018年度入試の出願状況をみると、私立大学ではセンター試験利用方式の志願者が増えました。検定料が安く、近くの会場で受験できますから。でも、2018年度はセンター試験利用方式で失敗した人が多かった。受かる人は出願したところみんな受かるのに、落ちた人は全部落ちた。しかも、センター試験利用方式は事前出願。結果を見てから出願できないので、センター試験で点を取れなかった人は厳しい結果になりました。

だから、私は駿台予備学校に通う受験生には、来年度は一般方式で少しレベル差を付けて“抑え”を作っていたほうがいいと話しています。定員が厳格化していますから。本当に行きたい大学を何校か受けて、その下ぐらいの、いわゆる安全校を一般方式で1校程度多く出願するというのがベストだと思います。あくまで首都圏、関西圏に限られる話ですが。

<取材日:2018年8月1日>